写実について

絵において写実の重要さはいつの時代も変わりませんが、表現と結びついたときに、純粋な写実だけが評価されるわけではありません。

その昔の絵画

写真機が発達する以前には、絵画は現在の写真と同様な役割を果たすことがありました。
ことに肖像画は、特定の人物の姿を平面上に表現し、後世に残すことが大きな使命でした。 そのため、古い時代の肖像画は「あたかも写真のように」詳細に描くことが要求されました。

風景や世の中のさまざまな事象も、それを記録するものとして絵が描かれることがありました。 そのような絵は、実物をいかに正確に描写しているのか、ということが重要でした。

そうした時代には、写実ということがことのほか重要でした。 この目的のためには、筆のあとが残らないような緻密な描画が必要でした。

バッハの肖像画、部分(1746)


現代の絵と写真

現代では、肖像写真を撮ることで人物の姿をありのままに残すことができます。 現代でもまるで写真のような肖像画を描く人はいますが、その絵画的な価値は昔ほどはありません。
風景や事件などの様々な事象もまた写真によって残すことができます。

そのような中で実在する人や物、出来事などを写実するものとしての絵の役割は変わり、 省略と強調こそが絵としての表現を際立たせるものとなりました。

写真が誕生した少し後のゴッホの自画像は、それまでの典型的な肖像画とはまったく違うタッチで描かれています。

ゴッホの肖像画、部分(1887)

肖像画に限らず、静物でも風景でも、絵画において写実だけの価値というものは現在ではほとんどなくなりました。 いいかえると、単に写真のように描くことができる、ということそのものには、価値がないということです。 とはいえ、省略と強調、あるいはデフォルメするとしても、写実的な描写力が不可欠であることに変わりはありません。
そうした中で、対象をどのように描くのか、というのが現代の重要な課題の一つになっています。


絵と写真の相違点

写真と絵画の違いを考えてみましょう。

写真で重要な点は次のような点です。

一方、絵画で重要な点は次のような点です。

フレーミング(構図)は写真にも絵にも共通しますが、他の要素は大きく違います。